完訳アンデルセン童話集 7 (岩波文庫 赤 740-7)

この巻に収録された作品は以下の通り。「木の精ドリアーデ」「にわとりばあさんグレーテの一家」「アザミの経験」「うまい思いつき」「運は一本の針のなかにも」「彗星」「週の日」「日の光の物語」「ひいおじいさん」「ろうそく」「とても信じられないこと」「家じゅうの人の言ったこと」「「おどれ、おどれ、お人形さん」」「「アマール女に聞くがよい」」「大きなウミヘビ」「庭師と主人」「ノミと教授」「ヨハンネ婆さんの話」「門のかぎ」「かたわもの」「歯いたおばさん」このシリーズの他の巻のレビューにも書いたが、豊かなイマジネーションや突飛な展開という魅力は初期のアンデルセン童話に多く見られる。このシリーズは発表年代順に作品を載せているので、３巻以降はそれらの魅力が比較的弱くなっている。その代わりに、キリスト教的な教訓や信仰、さらには風刺の要素が徐々に多く見られるようになっている。それでも、このシリーズの６巻までは豊かなイマジネーションや美しい描写の光る作品が垣間見えた。だが、この最後の巻ではそれすらも影をひそめ、かなり地味な作品が増えているように思える。ただし、この巻の最後にはアンデルセン自身による緒言一つと解説二つが載せられ、訳者あとがきも載せられている。アンデルセンが童話について、“自分の知っているメロディーか歌が聞こえてくるように瞬間的に頭に浮かんできた”と語っている部分などは興味ぶかい。ちなみに、アンデルセンはこの巻に収録された「家じゅうの人の言ったこと」で“この人生こそ最も楽しい冒険”と登場人物に言わせ、「運は一本の針のなかにも」で童話作者の自分について誇らしげな文を書いている。晩年のアンデルセンは幸福だったのかもしれないと、感慨を覚える。