アルベール・カミュ『ペスト』 2018年6月 (100分 de 名著)

この本は、カミュの『ペスト』の解説書です。私は『ペスト』を、新潮文庫の宮崎嶺雄訳で読みました。宮崎訳の『ペスト』は、訳文が読みにくいと私は感じました。宮崎訳の『ペスト』を読んでもいまいちポイントを掴めなかったので、私はこの本を手に取りました。この本を読むと『ペスト』という書物の崇高さがよくわかりますし、カミュは本当にノーベル賞に値する立派な人だったんだなと思いました。できれば、注釈が充実したより読みやすい訳文で『ペスト』を読んでみたいです。第1回は「不条理の哲学」です。カミュの生涯や『ペスト』の成立経緯について書いてありました。ペストの第一段階では、人々は個人的な幸福を第一に考えると中条氏は指摘します。作中に出てくる「抽象」という言葉には二つの意味があり、リウーは非現実的で「抽象」的な理念を持っているという意味と、ペストは途方もなく非現実的で「抽象」的な出来事だという意味があるという説明には溜飲が下がる思いがしました。第2回は「神なき世界で生きる」です。ペストを天罰だと考えるパヌルー神父、神を信じず人間の側に立つリウー、理解するためにペストと戦うタルー、ただささやかな仕事で役に立とうとするグラン、理念ではなく感情に生きるランベール…といった具合に、登場人物が描き分けられています。ペストの第二段階では人々が記憶や想像力を失い、絶望に慣れてしまうと中条氏は指摘します。第3回は「それぞれの闘い」です。ランベールとパヌルー神父の心境の変化について書いてありました。死刑制度や戦争などにみられる、「自分が善であることを疑わず、自分の外側に悪の存在を想定して、その悪と戦うことが自分の存在を正当化すると考えるような思考のパターン」が「ペスト」であるという内田樹氏の見解に私は感銘を受けました。タルーが危険を冒してでも犠牲者の側に立ち続けたことにも心を打たれました。第4回は「われ反抗す、ゆえにわれら在り」です。ペストがもたらした災厄を忘れずにしっかりと記憶することの大切さが強調されていました。不条理な災厄に反抗し、みんなで連帯しようとしたカミュの尊い魂が称えられていました。